豪州総選挙2019年 | 知っておきたい政治動向と政策 | 第2号:連邦予算

第2号:連邦予算 - 24 April 2019

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過去2週間に豪州の政治は、大きく動きました。自由・国民党連合政権 は2019/20 年度の連邦予算案を発表、スコット・モリソン首相は議会を解散、連邦選挙を2019年5月18日と発表しました。 

Lander & Rogers(ランダー&ロジャーズ)法律事務所発行の『豪州総選挙2019 年』の第1号 では、オーストラリアの政治制度、州選挙、外人投資家の皆様が関心のある重要課題についての労働党の政策について概説しました。第2号では、現在の国政状況、連邦選挙に向けて2大政党の予算案を詳細に論じていきます。

クイックリンク

政治動向

ニューサウスウェルズ州選挙

ニューサウスウェルズ州(NSW)では、2019年3月23日に州選挙が行われ、自由・国民党連合政権が勝利、 2011 年3月以来の政権を維持する結果とになりました。グレイズ・べレジクリアン州首相は、直接選挙で選ばれた初の女性NSW州首相として歴史に名を残すことになります。

連邦議会解散 ― 連邦選挙の発表

スコット・モリソン首相は、 連邦選挙日を2019年5月18日と発表、5週間に渡る選挙戦が開始されました。

2019年4月7日に発表された世論調査によると、野党労働党の支持率は、二大政党選好ベースで52%と与党の48% をリードしています。一方、自由党党首(現首相) は「どちらが首相に相応しいか」との質問には、46%の支持率を集め野党党首をリードしています。少数党政府として選挙戦に突入した自由・国民党連合政権が勝利をおさめることは困難に見えますが、国政におけるより良い『CFO』として現在のところ力強い選挙運動を展開しています。とはいえ、5週間の選挙戦では何が起きても不思議ではありません。

連邦政府

2019年4月2日に発表された2019/20 年度連邦予算案は、明らかに選挙向け予算であり、今後5週間に与党が発表すると予想される政策を示唆しています。伝統に従って応答した野党労働党の予算案に対する公式見解も同様に、明らかに選挙を意識したものです。

今号では、最近のニューサウスウェルズ州選挙、ビクトリア州選挙で有権者の激論を招いた問題に対する両党それぞれの予算案・政策を解説していきます。

豪州の外人投資家に最も影響がある政策

1.   労使関係政策

政府与党は最近、低迷する賃金の伸びを受けて、福祉やデジタルテクノロジーなどの分野で労働者の技能向上のための取り組みを発表しました。個人所得減税の他に、技能者不足を経験している職種の選択、或いは同職種への転換を促すように職業教育・訓練(VET)分野での5億25百万ドル相当の投資により労働者の賃金引上げを狙っています。

労働党による予算案への返答は、技能不足を解消するための教育への取り組みで始まり、 更に地方、遠郊外部での職業訓練施設建設への支持を表明しました。また、労働者の根本的ニーズを満たすには不十分な水準で国レベルの最低賃金を設定するより、労働者が基本的な最低の生活ができるだけの生活賃金の水準を決定するように、『生活賃金』(living wage)の検討を提案しています。さらに労働党の政策では、連邦政府による全てのインフラプロジェクトに要する人員の10% に実習生を採用、実習生(徒弟)訓練・支援制度への追加予算を提唱しています。

2.   再生可能エネルギー

気候変動と再生可能エネルギーは、引き続き主要な政策課題です。

政府与党の再生可能エネルギー目標は、2020年までに豪州の電力供給における再生可能エネルギー比率を23.5%まで、2030年までに26%に引き上げることです。この目標値は、石炭鉱山への新規投資、既存の石炭火力発電所の事業継続に対する政府の支持を背景に、労働党より低い水準となっています。

目標達成のために政府与党は、スノーウィー第二水力発電所への14億ドルの投資、タスマニア州の水力発電所からビクトリア州への送電により同州の電力供給力を強化するバス海峡第二インターコネクターなど、確実性の高い持続可能エネルギー開発案件への投資を約束しています。その他にも政府は、地方・遠隔地における小規模電力網に加え、民間による温暖化ガス排出削減案件やエネルギー効率改善計画等への投資に対する追加資金援助も約束しています。また、少額(150万ドル以下)の財源が、電気自動車戦略の策定に振り向けられていますが、他国での電気自動車への大きなシフトを考えると取るに足らない金額と受け取られるかもしれません。

労働党も再生可能エネルギーを大きな軸に選挙活動を展開しており、2030年までに豪州の電力供給における再生可能エネルギー比率を50%、新車販売台数における電気自動車の比率を50% まで引き上げるとう野心的な目標を提唱しています。また、電池貯蔵システムを据え付けた各世帯に2000ドルの補助金を提唱、2000年代後半のソーラーパネル向けの補助金交付時に経験したようなバッテリー需要の急増を引き起こしています。

公約の新タイプのエネルギーを国全体に送配電するのに必要とされるインフラの大規模改修にかかるコストについては、両党共に明らかにしていません。また地方、遠隔地域における局所的発電を促す小規模電力網に対する支援を表明していますが、より多くの消費者に割安で環境に優しいエネルギーを提供するという野心的公約を達成するためには、両党共に更なる政策アクションが求められるでしょう。

3.   輸送・交通インフラ

政府与党、野党労働党共に、輸送・交通インフラへの大規模投資を公約に掲げています。与党は、大都市の交通渋滞緩和と多くの州で発生している主要道路・鉄道インフラ需要に対応するために、今後10年間で大規模道路事業への1000億ドル規模の投資を提唱しています。

また政府は、豪州地方部と市場を繋ぐことによりサプライチェーンを強化、生産者と消費者双方のコスト削減につながる内陸部鉄道計画(Inland Rail Project)に加え、州都間、州都と地方都市を結ぶ高速鉄道プロジェクトへの投資も表明しています。内陸部鉄道計画 (貨物のみの高速鉄道計画)は、東海岸のメルボルン(ビクトリア州都)からブリスベン(クィーンズランド州都)までの1700キロを繋ぐ多数の独立したプロジェクトから構成されており、政府は 9.3億ドルの財政支援を決めています。同計画は既に始まっており、官民提携(PPP)プロジェクトの一つとして豪州レイルトラック社(Australian Rail Track Corporation)と共同で、民間部門が資金調達面やプロジェクトの主要局面に大きく関与する機会を提供しています。同計画を受けて、路線沿いに流通拠点としての産業用不動産向けの土地を早急に手当てしようとするデベロッパーの動きが、既に非常に活発になっています。その他の主要インフラ案件としては、シドニー西部での新空港開発や、8億ドルを投じてのブリスベン高速道路拡張計画があります。

労働党も、道路・鉄道インフラの大規模開発案件や民間の公共投資を支援するための100億ドルの財源に加え、公共輸送機関の改善を通じた交通渋滞解消のためにインフラへの大規模投資を公約に掲げています。更に、内陸部鉄道計画に関しても、資金援助の可能性を示唆しています。また労働党は、1440億ドルが必要と見積られているブリスベンからシドニー、キャンベラを経由してメルボルンを結ぶ新幹線計画( 時速350キロ )も支持しています。このような大規模プロジェクトを遂行するには、政権を一期以上維持できるとの確信が必要ですから、労働党がこれほど壮大なコンセプトの計画を政策として掲げ選挙戦に臨むかどうかは、興味深いところです。

鉄道開発案件は、高速鉄道網の開発と運営に経験豊かな海外の鉄道会社にとっても、大変関心の高い分野だと考えられます。

4.   金融サービス

銀行、年金、金融サービス業界の不行跡への豪州審議会(Royal Commission into Misconduct in the Banking, Superannuation and Financial Services Industry)からの余震は今後も継続、この分野では当面の間、業界、政府双方にとっての最注目事項に留まることが予想されます。同審議会の報告書では76件に及ぶ 提言がなされており、一部の銀行員や大手銀行に対する訴訟の示唆、規制当局の監督・執行権限の強化、利害の衝突を生む報酬制度の廃止、最後の手段としての補償制度の設立などが含まれます。

政府の予算案では、監督強化と法執行措置を選択しやすくするために、規制当局は6億ドル相当の財源を新たに配分されることになっており、豪州証券取引投資委員会 (ASIC)幹部は、「訴訟してみようじゃないか」のアプローチを取っていくとコメントしています。

選挙に勝利した場合労働党は、豪州審議会の提言中75件を実践すると表明しており、銀行、規制当局の双方が行動計画を策定、その目標の達成具合を定期的に報告することが義務付けられます。

5.   移民とビザ

移民とビザは連邦政府の管轄事項のため、選挙の結果はこの分野の政策にとって決定的です。現時点では、政府与党は移民数の上限を設定することを検討しています。また、今後4年間に受け入れる永住移民の数を合計で12万人削減する事を提案、移民にシドニー、メルボルン以外の州都、或いは地方に移住することも求めています。これは、既にシドニー、メルボルンに拠点を構え、海外からの技能労働者に依存、或いは豪州事業の幹部を本社から招聘した人材に任せたい企業に影響を与える公算が高いと考えられます。

労働党の移民政策の一つは、スマート('SMART'― 科学、医療、学術機関、研究機関、テクノロジーの頭文字をとったもの)ビザの発給で、この分野での世界的なリーダーになる事を目指すものです。

6.   研究開発(R&D)

研究開発(R&D)向けの追加財源は、2019/20 年度連邦予算案には含まれていません。しかしながら、未来医療研究基金(Medical Research Future Fund)に関しては、100%財源を確保する事を表明しており(2020/21年度までに、200億ドル超)、同基金は政府による世界最大の医療研究基金となります。同基金は、優先すべき取組みのリストを公表しており、医療研究機関の目標設定の為のガイドとなるでしょう。

労働党は、科学者やリサーチ・臨床試験への投資支援を含む研究開発向け財政支出増額(現在のGDP比 1.8%から3% へ)を公約にしています。また、官民の協働を促進するために、既存のR&D税制優遇措置を更に拡充する可能性も示唆していますが、現在のところ詳細は発表されていません。

7.   多国籍企業と輸出

政府は、多国籍企業をターゲットにハイブリッド・ミスマッチ規定(hybrid mismatch provisions)を導入、2019年1月1日以降に発生する国際間取引に適用されます。この規定は、1カ国以上で 税制優遇措置を受ける税慣行を取り締まろうとする試みです。政府は、マルチプルエントリー連結(Multiple Entry Consolidated -MEC) グループや信託などのより複雑なスキームの利用も取り締まれるよう、同規定の改正を発表しています。

与党はまた、オーストラリアの中小企業による輸出促進のために、輸出市場開拓助成金(Export Market Development Grant)制度への追加財政支援を提案しています。この制度は、収益が5000万ドル以下の中小企業のために輸出市場を開拓、これら企業の製品等を海外の顧客にプロモーションするものです。

与党の政策と大きく異ならず、労働党も多国籍企業の透明性を高める政策を公約としており、過少資本税制セーフハーバー条項テスト、多国籍企業による親子会社間の金利控除へのアームズレングス・テスト、MECグループと豪州連結企業間に存在する税制措置矛盾/税制優遇措置の除去などを提案しています。

次の動きは?

豪州は歴史的に、政治的に安定、確固とした法治国家として知られ外人投資家にとって魅力的な投資対象でした。一部は微妙な相違しかありませんが、他方では大きく政策の異なる2大政党による選挙活動を経て、5月18日にオーストラリア国民は、国の取るべき方向性を決定します。御社の事業に対する影響は、御社の事業戦略、企業体制、豪州での事業内容、また選挙中に発表される政策変更に左右されるかどうかによります。Lander & Rogers 法律事務所では5月の選挙まで、今後の政策発表の詳細を注意深く見守っていく所存です。

Lander & Rogers 法律事務所の日本チームは、日本人投資家の皆様の投資計画策定や投資戦略の実行にお役に立てると思います。今回の連邦選挙に関しましてご質問等ございましたら、ご遠慮なく当法律事務所のチームメンバーまでご連絡ください。

Deanna Constable (ディアナ・コンスタブル) – 法人部 エネルギー&資源、ジャパン・クライアント・グループ議長
Hon. Andrew Thomson (アンドリュー・トムソン)– ジャパン・クライアント・グループ顧問
Derek Humphery-Smith (デレク・ハンフリー-スミス)- 雇用労働関係、国際部長
Alex Ding (アレックス・ディン)- 法人部 エネルギー&資源
Tony Woods (トニー・ウッズ)– 雇用労働関係、 移民ビザ
Julian Olley (ジュリアン・オリー) 不動産、プロジェクト、インフラストラクチュア 
Mark Lindfield  (マーク・リンドフィールド) 金融サービス、事業保険
Monique Morgan  (モニーク・モーガン) 法人顧問弁護士     

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