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オーストラリア子会社の負債に対する責任:既存の規定とコロナ対策として導入された新条項

オーストラリア子会社の負債に対する責任:既存の規定とコロナ対策として導入された新条項

オーストラリア政府はCOVID-19の影響を受けている期間を対象に取締役と保有会社の責任の一部に一時的変更を導入しました。この救済措置は事業主にとって歓迎できるものの、今回の変更が会社の現在の支払能力に関する状況を悪化させ、取締役が賢明でない危険な選択をする結果につながる可能性もあります。

個人責任のリスクを避けるためには、取締役は会社の状況とオーストラリアの法律に基づいて利用できるさまざまな防御策についてアドバイスを求めるべきです。アドバイスを得てから取締役は厳しい選択に迫られるかもしれません。必要な資産を売却すれば、通常の営業に戻ってからの事業が非常に困難になる可能性がある一方で、現状を維持して営業を続けるためにさらに債務を増やせば、将来清算人から厳しい目で見られる可能性もあります。

こうした面における対策として取締役が行うべきことは、アドバイスを求め、事業記録を維持し、会社を監視することです。将来「セーフハーバー」に関する訴訟が行われた場合には、取締役は証拠を提供する必要がありますので、取締役の個人責任を軽減するためにはこうした対策を実施しておくことが賢明です。

厳しい状況と取締役の義務

通常なら支払能力のある多くの事業が、資金繰りの問題で債務を期限までに支払うことが困難になり、既に支払不能であるもしくは間もなく支払不能の状態になる可能性があります。オーストラリアの会社の取締役は、通常はこうした時期の債務増加の承認には慎重ですが、その理由は、そうした承認を行うと、支払不能取引(insolvent trading)の結果として生じたこうした追加債務に取締役が個人責任を負うリスクが生じるからです。

2001年会社法条項588G(2):オーストラリアの会社が支払不能であることを取締役が知っていたもしくは知っているべきだった場合で、その後、同社が清算された場合には、同取締役に個人責任を課すことができる。

誰もが厳しい状況にある(一時的であることを願いますが)現在の経済において取締役が直面する困難を認め、オーストラリア政府は新型コロナウイルスに対応する緊急経済対策をまとめたCoronavirus Economic Response Package Omnibus Act 2020 (Cth)という緊急法案を可決し(以下「一時停止法」)、同法を2020年3月24日に施行しました。同法の定めにより取締役は、会社の支払不能取引に関して一時的に(6か月間)個人責任を問われなくなります。

既存のオーストラリアの法律に基づく救済(下記参照)にこの新しい法律が加わったことより、取締役はこれまでよりも会社経営において積極的な対策をとることが可能となりましたが、救済を受けるためには、こうした対策は該当するクライテリアを満たす必要があります。このクライテリアは広範で、その解釈には異なる見解がありますので、各対策が確実に救済の対象となるようにするには、細心の注意と良好なアドバイスが必要です。

….外国もしくは国内の保有会社に対しても一部救済

外国やオーストラリア国内の保有会社も同様に、オーストラリア子会社が支払不能の状態で取引を行った場合には、同子会社の債務に責任を負うことになるリスクがあります。こうした保有会社も一時停止法(条項588WA(1))の定める適切な対策をとった場合には、同法の救済の対象となる可能性があります。

取締役と保有会社のいずれの場合においても、この新しい救済措置は一時的なものであり、政府が期間を延長しない限り2020年9月25日に失効します。現時点では延長されると見込むことはできません。

一時停止法に基づく取締役の新しい一時的救済

一時停止法は支払不能取引に関する取締役の個人責任について、新しい救済をいくつか導入しています。ただし、この救済を受けるためにはいくつかのクライテリアを満たさなければなりません(会社法の新条項588GAAA)。

クライテリア:

生じた債務が次の条件をすべて満たす場合には、取締役は責任を負わない。

  1. 会社の通常業務の一環として生じた。
  2. 3月25日から6か月間以内に、もしくは規則の定めるこれ以上の期間中に生じた。
  3. この一時的「セーフハーバー」期間中に生じ、かつ管財人や清算人の指名以前に生じた。

クライテリア1:「会社の通常業務の一環」

債務が通常業務の一環として生じたかどうかが原則的な問いですが、これが特定の状況にどのように適用されるかを判断するには、その状況の事実関係の検討が必要です。従うべき総合的なルールはありませんので、貴社の具体的な状況についてアドバイスを受けられることをお勧めします。

政府のexplanatory memorandumと呼ばれる補足説明には次のガイダンスがあります。「この6か月間における事業の継続を補助するもしくは可能にするために必要な場合には、取締役は通常業務の一環として債務を負ったと解釈される」

この例として「業務運営の一部をオンライン化するために取締役が融資を受けた場合」や「新型コロナウイルスのパンデミック中に従業員に対する支払いを継続するために債務を負った場合」が挙げられています。

こうした例には幅があり、このクライテリアが広く解釈されることを示唆しています。判例法では、普通は「通常業務の一環」ではない取引を説明するものとして景気後退などが有効に使われています。

こうした規定や例は借入の組み替えや借り換え、社債などについては言及していません。現在のところ、この新しい一時停止法の規定では取締役は守られないものの、既存の救済(下記参照)によって守られる可能性があるという解釈が示唆されています。

クライテリア2:対象期間中に生じた債務

6か月の対象期間は3月25日に始まり9月25日に終了します(「モラトリアム期間」)。これ以降に生じた債務やこれ以前に生じたものに遡求的に適用されることはありません。

原則として債務とは、会社が自身の選択によって何かを行ったもしくは行わなかったことにより、そうしなければ負わなかったはずの債務を負担することになる場合に生じます。この意味は柔軟で状況に左右されます。

2005年の判例「ASIC対 エドワーズ (ASIC v Edwards (2005) 220 ALR 148)」でバレット判事は、債務の負担には「会社に債務を負わせる原因となる行為や不作為、もしくはその他の状況」を伴うと述べています。

主な指標としては次のものが挙げられます。

  • 今後ある時点で金銭的義務が生じる取り決めに関する契約に署名するもしくはそうした取り決めに同意する。その金銭的義務が署名や同意によって即座に生じない場合も含まれる。
  • 金銭的義務を生じる権利を行使する。

継続して重視すべき取締役の義務

この一時停止法は取締役が会社法の下で定められている通常の義務を遵守する責任を変更するものではありませんし、それを緩和するものでもありません。こうした義務はこのモラトリアム期間を通じて引き続き適用され、同期間内に取締役がとるいかなる行動も引き続き、こうした義務が遵守されているかの判断の対象となります。こうした義務とは次の通りです。

  • 能力と勤勉さ:その会社の状況で取締役の立場に置かれた合理人が有するであろう能力と勤勉さで権限を行使し、義務を遂行する。
  • 誠実:会社の最善の利益のために、かつ正しい目的で誠実に権限の行使と義務の遂行を行う。
  • 適切な地位の利用:自分の地位を不正に利用して利益を得たり、会社に悪影響を及ぼしたりしない。
  • 適切な情報の利用:取締役という立場で得た情報を不正に利用して利益を得たり、会社に悪影響を及ぼしたりしない。
  • 利益相反:利益相反を防ぎ、会社の最善の利益のためだけに行動する。

債務の支払義務は継続

モラトリアム期間中に生じたいかなる債務も、支払義務があることに変わりはありません。この点は、取締役が会社の長期的な支払能力を検討する上で非常に重要です。債権者の利益も考慮しなければなりません。

取締役の義務には債権者に対する義務も含まれる

「会社の最善の利益のために行動する」目的で引き続き義務を果たす上で、取締役は債権者の利益を考慮する必要があります。この義務は会社に支払能力がない場合や支払能力がない可能性が高い場合に生じます。この義務の遂行は、関連する事実関係と状況を適切に考慮することで行われます。将来の債務によって会社が支払不能となる場合には任意管理手続きに入るという選択をすることもあるかもしれません。

オーストラリアの法律に基づく既存の救済

取締役の責任

次のいずれかにあてはまる場合には、この2001年会社法条項588Hに基づいた支払不能取引に対する防御となります。

  • 当該債務を負った時点で会社に支払能力があると考えた合理的な根拠が取締役にあり、かつ取締役はそう考えた。
  • 取締役は十分な情報を得た有能で信頼できる者から支払能力についてのアドバイスを得た。
  • 当該債務が生じた時点で取締役は病気その他の理由により経営に参加していなかった。(この防御は確立が困難)
  • 会社が当該債務を負わないようにするために取締役はあらゆる合理的な措置をとった。

セーフハーバーによる保護

会社法はまた、支払不能に近い事業を救おうとして適切な再編や資本増強の措置をとった取締役に対する特定の救済も定めています。(条項588GAおよび保有会社については条項588WA)

会社にとってより良い結果をもたらすであろう一連の措置の策定の一環として当該債務が生じた場合には取締役(もしくは保有会社)は責任を負いません。この一連の措置として取締役(もしくは保有会社)は次のすべてを行うべきです。

  • 会社の財務状況について十分に理解している。
  • 従業員による不正行為を予防するための適切な措置をとっている。
  • 適切な財務記録を保持している。
  • 適切な資格を有する者からアドバイスを得ているなど。

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